こんにちは、world is aozoraです。
本日は『蟹工船』という作品を紹介していきます。
『蟹工船』はプロレタリア文学という、搾取される労働者たちの苦しい実態を描く作品ジャンルを代表する作品の一つです。
大正から昭和の時代にかけて流行した文学ジャンルで、歴史の教科書で目にしたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
また『おい地獄さ行えぐんだで!』という、インパクト抜群な書き出しの一文でも有名な作品です。
2008年ごろ『蟹工船』ブームなるものが到来して話題になるなど、近年に至るまで話題の尽きないこの作品。
しかし実は、原文の著作権はもう切れています。
青空文庫でタダ読みすることができますよ!
このチャンス、逃すわけにはいきませんよね?
作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
本文を読みたい方は、上記リンクから飛んでいただくとして
ここからは早速、作品について紹介していきます。
作品情報
タイトル:蟹工船
読了目安時間:2時間〜3時間
あらすじ
荒れた極寒の海をゆく、1隻の船。
そこでは400人近い乗組員が日々、カニを獲り、缶詰に加工していた。
労働環境は地獄そのものだった。
常に死と隣り合わせ、1日の労働時間は10時間をゆうに超え、満足な食事にもありつくことができない。病人でも関係なく駆り出され、仕事をサボった者には容赦ない体罰が待っている。
ある登場人物はこう嘆いた。「ドストイェフスキーの死人の家な、ここから見れば、あれだって大したことでないって気がする」。
荒波に飲み込まれ、過労に倒れ、1人また1人と仲間が減っていく中、追い詰められた労働者たちがついに声を上げた。
「こ、こ、殺される前に、こっちから殺してやるんだ」
「殺されたくないものは来れ!」
さあ、彼らの反撃が始まる —— !
『蟹工船』はこんな人にオススメ!
リアリティのある作品が読みたい人
『蟹工船』は、現代ではあり得ないレベルのブラックな労働環境が、リアルに描き出された作品です。
そのリアリティには秘密があります。
なんと『蟹工船』には、モデルになった船があるのです。
過去に実在したこの船でも、乗組員たちは北洋でカニ缶詰を作っており、過酷な労働環境やリンチなどで死者が出たと言われています。(詳しくは博愛丸事件を参照)
お察しの通り、蟹工船の舞台設定とかなり似ていますよね。
『蟹工船』は小説なので、実際に起こったことがそのまま書いているわけではないですが、きっと本当に起こった事件があちこちに散りばめられているのだろうと思います。
暗めのな展開が好きな人
この記事の冒頭で、蟹工船はプロレタリア文学の代表作であるとお伝えしました。
そしてプロレタリア文学とは、搾取される労働者たちの苦しい実態を描く作品ジャンルだとも書きました。
つまりこの小説、登場人物たちがつらい目に遭うシーンが多数出てきます。
しかも、展開が進むにつれてどんどん苦境に追い込まれていきます。
報われない展開がお好きな方に、ぜひオススメしたい一作です。
逆にいうと、明るくて平和なお話の方が好き!という方には、あまり向かない作品かもしれません。
感想(ネタバレ注意!)
詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。
盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。
(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)
推しポイント1:1500字の風景描写が凄い!リアリティ溢れる労働者の苦悩
推しポイントの1つ目は、描写のリアルさです!
「さっきもその話聞いたよ〜」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、まあ聞いてください。
この小説には「実在の船がモデルになっている」以外にも、リアルさが追求されているポイントがあるんです。
例えば第二章の冒頭部分の、荒れた極寒のオホーツク海を描いたシーン。
ここでは風や雨、波などがどんな動きで、どんな音を立てているか、それによってどんなふうに船を揺らし軋ませるか、それが労働者たちにとってどんなふうに感じられるのかが書かれています。
が、その詳細さが尋常ではありません。
なんと1500字以上使って書かれています。
1500字もあれば、面白い短編小説が一つ書けそうですよね。
短編小説相当の文字数全部を、風景描写だけに注ぎ込んでいるわけです。
しかもその内容1つ1つが秀逸で、ただ単に海の様子を想像しただけとは思えないほどの説得力があります。
「小林多喜二って、蟹工船で働いてたことあるんかな?」と思ってしまうレベルでした。
現代の技術を持ってしても、北方の海でのカニ漁は危険と言われていますが、このシーンを読んでいただければその理由を「体感」した気分になれると思います。
「蟹工船をこれから読むよ」という方がいらっしゃれば、ぜひ一つ一つの風景や感覚を想像しながら読んでみてください。
劣悪な環境でブラック労働させられている気分を味わえますよ (^^)
推しポイント2:名前のない労働者たち!徹底的な客観視点で描かれる群像劇
推しポイント2つ目は、作品を通して使われている文体の特徴です。
実は蟹工船は、他の小説では類を見ないぐらい客観的な視点で描かれています。
例えば、この作品には特定の主人公がいません。
よく登場するキャラクターは数人いるものの、彼らも「学生上り」や「吃りの漁夫」のように表現されています。
名前がついていないのです。
短編作品ならいざ知らず、6万字越えの作品で、登場人物の名前が明かされないのは珍しいのではないでしょうか。
この文体によって蟹工船は「特定の人の行動」というより、「集団として人がどう動くのか」をシミュレーションした作風を実現していると感じました。
推しポイント3:プロレタリア文学を知っているからこそ・・・・・・ストライキの盛り上がりへの緊張感!
最後の推しポイントは、ストライキが盛り上がっているときに読み手を襲ってくる緊張感です。
物語の前半では、蟹工船の鬼監督・浅川に労働者たちがこき使われるシーンが続きますが、後半までくると乗組員たちは一致団結。ストライキを起こすことで、浅川に対抗します。
計画は順調に進んでいき、乗組員たちの士気はどんどん高まっていくのですが・・・・・・。
普通なら読者の気持ちも、それに伴って盛り上がっていくと思います。
しかし私の場合は、ストライキが盛り上がれば盛り上がるほど、不吉な予感というか、嫌な緊張感が湧いてきました。
なぜなら、蟹工船はプロレタリア文学。
つまり、労働者の辛い現実を描いた作品です。
「辛い現実」と言い切っているのですから、そう簡単に労働環境が改善されるわけがない。
そんな邪推が、思わず働いてしまいました。
しかもそんな邪推を裏付けるかのように、いざ乗組員たちがストライキを起こしてみても、浅川監督は不気味なぐらい落ち着き払っているんですよね。
嫌な予感、倍増です。
読み手からすれば「バッドエンドがほぼ確約されている状態」なのに、乗組員たちはストライキの成功を信じて胸を高鳴らせている ——
このもどかしさとドキドキ感、バッドエンド好きには堪りません(笑)
まとめ
本記事では、小林多喜二の『蟹工船』のあらすじと感想を書かせていただきました。
この記事を通して、少しでも『蟹工船』や彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
改めまして、作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
おまけ:『蟹工船』が好きな人にオススメの作品
このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『蟹工船』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。
次に読む本に困っているそこのあなた!
騙されたと思って読んでみてください。
おすすめ1:『党生活者』| 小林多喜二
小林多喜二の別の小説のご紹介です。
蟹工船と同じく、ブラックな労働条件の工場が舞台の『党生活者』。
しかしこちらの作品に出てくる登場人物たちは、蟹工船の船員たちよりも頭脳派です。
蟹工船が「民衆のクーデター」的な感じなら、党生活者は「スパイの暗躍」という印象に近いでしょうか。
以前、別の記事で感想を書かせていただいた一作でもあります。
explorer-of-the-aozora.hatenablog.com
気になる方は、以下のURLからぜひ読んでみてください。
おすすめ2:イワンのばか | トルストイ
続いてご紹介するのは、トルストイというロシア作家の作品です。
イワンという善良な青年の生き方を描いた作品で、
蟹工船とはうってかわった、穏やかでファンタジックな雰囲気が特徴です。
ただ・・・・・・
社会主義の活動家としても有名な小林多喜二の関連小説として、ロシアの作家が出てきたということは、もうお分かりですよね?
一説によると、こちらの作品は社会主義の思想を描いた作品だと言われています。
しかし実際読んでみると、作者が言いたいのは本当にそういう話なのか、というところは読み手によって解釈が変わるんじゃないかと感じました。
あなたもぜひ読んで、自分なりの解釈をしてみてください!
また、こちらも以前の記事で紹介させていただいているので、読んだらぜひ、感想を共有しにきてくださいね。
explorer-of-the-aozora.hatenablog.com
作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)