こんにちは、world is aozoraです。
本日は『家長の心配』という作品を紹介したいと思います。
5分以内に読める短い物語なのですが、とても面白いポイントがあります。
なんと青空文庫に、翻訳者が異なる二つのバージョンが収録されているのです!
皆様の中には「同じ物語を翻訳しているのだから、どちらを読んでも同じではないか?」と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
翻訳者が違うだけで、雰囲気がガラリと変わります。
ストーリーは同じはずなのに・・・・・・不思議ですよね。
さて、この記事では、『家長の心配』のあらすじを解説しつつ、2つのバージョンを比較しながら感想を書いていきます。
みなさんも、ぜひ違いを楽しんでみてください。
作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
『家長の心配』(訳:原田義人)
『家のあるじとして気になること』(訳:大久保ゆう)
小説の基本情報
まずは、二つの小説の基本情報を並べて記載しておきます。
タイトル:『家長の心配』 / 『家のあるじとして気になること』
(原題:DIE SORGE DES HAUSVATERS)
翻訳者:原田義人(wikipedia)/ 大久保ゆう(青空文庫 — 作家別作品リスト)
読了目安時間:5分以内
あらすじ
「オドラデク」という生物がいる。
名前の起源も、生態も、声や姿形ですら、全てが謎に満ちているそいつは、ちょくちょく主人公の家にやってきては、特に何かするでもなくじっとしている。
何かの役に立ちそうでもなく、かといって害をなすわけでもない。
そんな不思議な生物に、主人公が抱いている思いとは —— ?
『家長の心配』はこんな人におすすめ!
不思議な世界観が好きな方
この物語には「オドラデク」という謎の生物が存在しています。
その正体は誰も知りません。
そんな未知なる生物が、ふらりと主人公の家にやってきて住みつく、というのがこの物語の始まりです。
普通、見たこともない謎生物が家に入ってきたら、びっくりしますよね。
しかし、主人公は違います。
オドラデク相手に大きなリアクションをとることもなく、まるで当たり前のようにその生物と接していきます。
そんな主人公の塩対応が、ちょっと面白いような、不思議なような・・・・・・。
シュールなファンタジーを読みたい方に、ぴったりの作品です。
とにかく短時間で読める作品を求めている方
「小説を読みたい! でもあと5分で自由時間が終わってしまう!」と葛藤している方へ。
こちらの作品は、めちゃ短いです。
早い人なら2分で読み切れます。
なので5分あれば、2作品とも読めます。
いますぐこのページを閉じて、作品URLの先に飛んでください!
【再掲】作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
『家長の心配』(訳:原田義人)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49858.html
『家のあるじとして気になること』(訳:大久保ゆう)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card47212.html
感想(ネタバレ注意!)
詳しいストーリーは小説本文を読んでいただくとして、ここからは作品を実際に読んでみた感想をお伝えしていきます。
盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。
(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)
推しポイント1:二つの作品の対比が面白い!
この作品の一番好きなポイントは、「異なる翻訳を読み比べる」という珍しい楽しみ方ができるところです。
再三述べている通り、『家長の心配』と『家のあるじとして気になること』は全く同じ文章を日本語に直したものです。
しかしそのわりには、雰囲気がけっこう違います。
雰囲気の差を最もハッキリ感じたのは、以下の二つの文章を読んだときでした。
オドラデクはひどく動きやすくて、つかまえることができないものだからだ。(『家長の心配』より)
オドラデクはめちゃくちゃすばしっこいやつなので、どうにもつかまえられなくて、だからそういうことをどうとも言えんのである。(『家のあるじとして気になること』より)
これらは同じ内容を述べた文章ですが、文体がかなり違いますよね。
『家長の心配』の文章は青空文庫の作品によくある、少し硬めの雰囲気。
一方、『家のあるじとして気になること』は柔らかい表現が多めなのかな、と感じました。
このように「同じ文章を翻訳しているのに違う印象を受ける」箇所は、他にもあります。
例えば、主人公がオドラデクに話しかけるシーン。
このとき彼は、子供に話しかけるような口調で声をかけるのですが、その理由が原田版では「オドラデクがあんまり小さいから」となっているのに対し、大久保版では「小さなことしかしないやつだから」となっています。
原田版の主人公はオドラデクを気遣って優しい口調をとっているのに対して、大久保版の主人公はオドラデクを大したことない存在だと内心見下しているからそうしたようにも感じられますね。
同様の対比は、最後の一文にも現れています。
原田版の主人公は、最後にオドラデクの将来を心配しているように感じるのですが、一方、大久保版では、オドラデクとの関わりを断ち切ることができない自分の子供や孫の方を心配しているように見えます。
二人の翻訳者の間では、オドラデクの解釈に違いがあったのかもしれませんね。
もちろん、読み手によって感じ方もさまざまだと思いますが、こんなふうに同じ物語に対する異なる視点が垣間見えるというのは、とても面白い読書体験だと思いました。
推しポイント2:オドラデク・・・・・・お前っ。かわいいな
推しポイント2は表題の通りです。オドラデクが可愛いんです。
そもそもこの生物、おどろおどろしい名前をしていますが、「星型の糸巻き」というファンシーな形をしています。
行動も屋根裏や廊下でボーッとしているかと思えば、数ヶ月ものあいだ姿を見せないこともあります。のんびりとマイペースに生きていて、微笑ましいですね。
そして極め付けのラストシーンでは、オドラデクがとても無邪気におしゃべりしてくれます。
ああ、かわいい。
かわいすぎる。
いくらオドラデクが「落ち葉がカサカサいうような耳障りな声」をしているといっても、あの言葉遣いの無邪気さは反則です。
・・・・・・いや冷静に考えたら、落ち葉がカサカサいうような声って何?!
まとめ
本記事では、フランツ・カフカの『家長の心配』/ 『家のあるじとして気になること』のあらすじと感想を書かせていただきました。
この記事を通して、少しでもこれらの作品や、カフカの他の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
改めまして、作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
『家長の心配』(訳:原田義人)
『家のあるじとして気になること』(訳:大久保ゆう)
おまけ:『家長の心配』が好きな人にオススメの作品
このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『家長の心配』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。
次に読む本に困っているそこのあなた!
騙されたと思って読んでみてください。
オススメ1:『判決』| フランツ・カフカ
『家長の心配』では、主人公がオドラデクに向けていた感情は、ある種「父親が子供に対して抱いている心配」を描いているようにも感じられました。
一方『判決』は、同じ作者が「息子から父親への感情」を描いた内容になっています。
冒頭からは想像もつかないエンディングは必見です!
作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)
オススメ2:『手袋を買いに』| 新美南吉
『手袋を買いに』は「母親から子供に対する心配」 が出てくる作品です。
カフカのようなシュールレアリズム的ファンタジーではなく、ほっこり癒される文章で書かれているのが魅力の一つ。
こちらもエンディングの母のセリフがとても印象的でした。
未読の方は、是非読んでください!
作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)