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『党生活者』あらすじと感想 | 青空文庫のオススメ作品紹介

『私達は退路というものを持っていない。 私たちの全生涯はたゞ 仕事にのみうずめられているのだ。』これは共産党活動に人生を捧げた、とある活動家の記録

こんにちは、world is aozoraです。

本日は『党生活者』という作品を紹介していきます。

 

過酷な労働環境で搾取される労働者たちの苦しい実態を描き、プロレタリア文学を代表する作品の一つとして名高い『党生活者』。

作者は、同じくプロレタリア文学の代表作『蟹工船』で知られる小林多喜二氏です。

 

小林氏は生前、社会主義の実現を目指し、当時非合法だった日本共産党の党員として活動していました。

彼は厳しい弾圧を受けながらも、投獄と釈放を繰り返し、数々の作品を執筆しました。

その中でも、最後に書かれたのが『党生活者』なのです。

 

彼は『党生活者』の執筆途中で亡くなっているため、この小説は「前編おわり」という文言で結ばれています。

 

が! 侮るなかれ。

前編だけでも、非常に興味深い内容になっています。

 

そんな作品が、青空文庫でタダで読めるというのですから

このチャンスを逃すわけにはいきませんよね。

 

さあ、読みたくなってきた、そこのあなた。

作品URLはこちらです↓(青空文庫のページに飛びます)

www.aozora.gr.jp

 

まだそれほど興味が湧いていない」「本当に面白いの?」と思っている方、まずはここから先の内容をチェックしてみてください。

読みたいと思っていただけるように、作品のあらすじや魅力を解説していきます!

 

基本情報

タイトル:党生活者

作者:小林多喜二wikipedia

読了目安時間:2時間〜3時間

 

あらすじ

戦争が始まったことで、軍需工場の仕事が増加した時代。

軍需関連の生産を担う倉田工業では、深刻な人手不足により、超ブラック労働がまかり通っていた。

工員たちは朝8時から夜9時までぶっ通しで働かされる上に、給料は激安で日々の生活もままならない。しかし他に良い働き口もないため、彼らは劣悪な労働条件下で耐え忍ぶしかなかった。

 

そんな中、主人公の「私」と須山、伊藤の3人の共産党員が倉田工業に潜入する。

彼らの目的は、労働条件の改善と戦争反対(当時の共産党の主張内容)を訴えること。

警察の監視をかいくぐりながら、なんとか活動を続けていた彼ら。

しかしある日、工場経営陣は3人の動きに気付き、驚きの反撃に出る。

 

果たして3人の目論見は成功するのか?

 

『党生活者』はこんな人にオススメ!

ミステリー以外の頭脳戦も楽しみたい人

頭を使う系の小説といえば、やはり真っ先に思い浮かぶのはミステリーですよね。

しかし読書という活動は、同じ分野の本ばかり連続で読んでいると、やがて飽きが来てしまうものです。

ミステリーもまた然り。

 

「キャラクターたちが知力で活躍する物語が好きだけれど、ミステリーは読み飽きてしまった・・・・・・」という方も、一定数いらっしゃるのではないでしょうか。

 

そんな方におすすめなのが、戦時中の政治体制や社会情勢を描いた作品です。

戦時下の物語は、政治や軍事の駆け引き、陰謀など、頭脳戦が繰り広げられる場面が盛りだくさんです。

 

『党生活者』では、主人公たちが労働者たちを酷使する政治に立ち向かう様子が描かれていますよ。

 

 

折れない心で頑張る登場人物たちが好きな人

どんな困難にぶち当たっても希望を失わず、ひたむきに努力を続けるキャラクターたちって、ついつい応援したくなりますよね。

『党生活者』のメインキャラである「私」・須山・伊藤は、3人ともどんな困難にぶつかっても果敢に挑戦を続けます。

 

例えば主人公は、仲間に裏切られて警察に指名手配される身となっても、そのせいでどれだけ苦しい生活を強いられることになっても、さらには実の母親と縁を切らなければならなくなっても、決して党活動を諦めることはありません。

全ては彼が信じた、大いなる目標を達成するため。

そのためなら、どんな犠牲でも厭いません。

 

まさに不屈の精神ですね。

 

ちなみに『党生活者』では、当時の社会主義思想の良い面であった「戦争反対」や「労働条件改善」が目標として据えられてい流ので、読者の我々からしても、主人公たちに感情移入しやすいです。

 

きっとあなたも読み進めるうちに、つい応援たくなるはず。

 

感想(ネタバレ注意!)

詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。

 

盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。

 

(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)

 

 

推しポイント1:まるで敵国に潜るスパイ? 党員の生活に密着せよ!

最初の推しポイントは、共産党員として非合法に活動する主人公の生活描写です。

 

彼は周囲の人々に怪しまれずに活動を続けていくために、まるでスパイのような日常を送っています。

「仲間同士と悟られないために、工場に潜入中は須山や伊藤とできる限り顔を合わせないようにする」という基本的なところはもちろん、退勤後も警戒心MAXな生活が続きます。

 

例えば、

  • どこに出かけるときも、必ず服装をその場にピッタリ適応するように選び、決して群衆の中で浮くことがないようにする。
  • これから自分が向かう方面で大きな事件が発生していないか、新聞を買いあさってチェックする。(大事件が発生すると、その地域の警察の警備が厳しくなるため)
  • 新しい下宿先に越してきたら、真っ先に同居人たちの職業や普段の生活をこっそり調べ、活動上注意すべき人間がいないかどうか確認する。それが終わったら、下宿先の周辺の路地や抜け道を徹底リサーチし、逃げ道を確保する。
  • 2階に住んでいるときは、いつ警察が押し入ってきても逃げられるように、ベランダに草履を常備しておく。
  • 下宿先の管理人や近所の住人に怪しまれると、警察が調べにきたときに自分に不利な証言をされる可能性があるため、彼らとはできるだけ友好的に接して信頼を勝ち得ておく。
  • 近所の貧乏な子供にお駄賃をあげたり
  • 食事すらままならない状況が何日続いたとしても、家賃だけはなんとか確保して、滞納せずに払い続けたり

 

などなど、主人公のアブノーマルな生活事情は枚挙にいとまがありません。

 

しかもスゴいことに、これらの描写はどれもこれも、かなりのリアリティを感じるものばかりです。

 

それはもう、「この小説に書いてあることを実践すれば、本当に警察から逃げ切れるんじゃないか?」と思わず考えてしまうほど・・・・・・(もちろん、そんな事態に陥る予定はありませんが!笑)

 

もしかするとこれらのシーンには、党活動家だった小林氏の実体験がふんだんに盛り込まれているのかもしれないな、と感じました。それなら、このリアリティにも納得ですね。

 

推しポイント2:まさに全生涯をかけた戦い! 主人公の人間関係

推しポイント1では、主人公のスパイのような生活の一部を紹介しました。

しかしそれだけには飽き足らず、彼は人間関係に関しても徹底した管理を行っています。

 

例えば

  • 個人的な友達付き合いは全て断ち切り、話をするのは党員仲間だけ。それもなるべく小さい声で、できるだけ無駄を省いて用事だけを話すようにする。
  • 非合法に活動している身のため、迷惑をかけないために、実の母親とも縁を切る。
  • 警察に本格的に追われ始め、仕事に就くこともできなくなった際には「近所の人間から不審がられないようにするため」という理由で、定職に就いている女性に結婚を申し込む。

などなど。

 

3番目の結婚理由なんて女性側からしたら、たまったものじゃないですよね。違法な活動をしているヒモ男を養うなんて・・・・・・私なら絶対イヤ!*1ブルブル

 

しかしこの女性(笠原さんという名前)、なんと、この結婚を受け入れます!

 

笠原は結婚後、タイピストとして働くことで主人公を養いつつ、彼の党活動を支援していきます。

 

(ちなみに笠原のように、男性党員の活動を支持し、一緒に暮らしていた女性のことをハウスキーパーと呼ぶらしいです。詳しくは wikipedia 参照)

 

最初は順調だった結婚生活ですが、そのうち笠原にも「共産党支持者なのでは」という疑いがかかり、タイピストの仕事を解雇されてしまいます。

 

その後、主人公が笠原にした鬼畜な仕打ちは、この小説に関する議論で賛否両論が分かれる有名なポイントでもあります。

 

詳細な内容は、ぜひ小説本編をチェックしてみてください。

 

 

推しポイント3:静かなる闘争。頭脳戦はマジで必見

推しポイント3は『党生活者』はこんな人にオススメ! の章でも触れていた、頭脳戦についてです。

 

小説の中で、「主人公 & 須山 & 伊藤」と「工場経営陣」はお互いに、できるだけ多くの工員を自陣営の味方につけようと争っています。

 

なぜなら経営者たちにとっては「できるだけ多くの労働者が自分たちの指示に従ってくれた方が、工場の利益を上げやすい」から。「味方の工員=搾取可能な労働力」というわけです。

 

逆に主人公たちにとっても、自身の主張である「戦争反対」「労働条件改善」といった内容に対して、できるだけ多くの工員から支援を得た方が、その後の行動(ストライキなどの一斉蜂起)に繋げやすくなります

 

より多くの工員を獲得するため、両陣営は対立し、争います。

 

といっても当然、少年漫画のように拳で語り合うわけではありません。

彼らの武器は「言論」です。

 

例えば小説の序盤のシーン。主人公たちは初め、自身の主張内容をまとめたビラをまくなどして、工員たちの理解を得ようと努力しました。その結果、工員たちは少しずつ「自分たちは、労働力を不当に搾取されているのでは」と感じるようになっていきます。

 

しかし作戦が徐々に効き目を現し始めたこのタイミングで、工場側が反撃に出ます。

 

その反撃方法が秀逸で、彼らは労働者のうち優秀な業績を上げている者と、そうでない者の間で、待遇に大きな格差をつけるのです。

 

この結果、自身の待遇を上げるため、工員たちは(同じ賃金にも関わらず)以前にも増して働かされるようになってしまいました。また工員同士が皆ライバルになってしまったので、彼らを一致団結させてストライキなどの行動を起こすことも難しくなりました。

 

この第1回戦、主人公たちの敗北です。

が、彼らは諦めず、次なる作戦を打ち出し、工場を相手に果敢に主張を展開していきます。

 

読んでいて感心したのは、主人公陣営も工場陣営も、工員たちの心理をついた巧妙な作戦を次々と実行していくというポイントでした。

 

上記で紹介した「待遇格差を利用した労働者の分断」は、その最たる例ですよね。

 

そりゃあ、業績が優秀な工員だけに特別な待遇があるというのなら、みんな業績上位を目指して働かざるを得ません。

 

たとえ主人公たちが「このまま経営層の言いなりになって働き続けていてはダメだ」と訴えかけても、そう簡単に工員たちは働くのを辞められないのです。自分の生活がかかっていますから。

 

ちなみに工員たちがみんな必死で働くようになったため、生産効率はアップし、結果的に工場の収益は大幅に増えたらしいですよ。主人公陣営の邪魔をしつつ、ちゃっかり工場側の利益も上げているのも、この作戦の賢さが光るポイントです。

 

 

さて、物語が後半に進むにつれて、彼らの戦いはヒートアップし、より大胆になっていきます。

闘争の行方がどうなるのか、気になる方はぜひ本文を読んでみてください。

 

 

まとめ

本記事では、小林多喜二の『党生活者』のあらすじと感想を書かせていただきました。

 

この記事を通して、少しでも『党生活者』や彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。

 

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

 

 

 

改めまして、作品URLはこちら↓(青空文庫のページに飛びます)

www.aozora.gr.jp

 

 

おまけ:『党生活者』が好きな人にオススメの作品

このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『党生活者』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。

 

次に読む本に困っているそこのあなた!

騙されたと思って読んでみてください。

 

オススメ1:蟹工船 | 小林多喜二

小林多喜二の別の小説のご紹介です。

 

党生活者と同じく、ブラックな労働条件の工場が舞台の『蟹工船』。

しかし党生活者の登場人物たちが組織的に活動していたのに対し、蟹工船の船員たちは共産党には縁のない人々ばかり。

 

党生活者が「スパイの暗躍」的な感じなら、蟹工船は「民衆のクーデター」という印象に近いでしょうか。

以前、別の記事で感想を書かせていただいた一作です。

explorer-of-the-aozora.hatenablog.com

 

気になる方は、以下のURLからぜひ読んでみてください。

www.aozora.gr.jp

 

 

オススメ2:牢獄の半日 | 葉山 嘉樹 

『党生活者』では、主人公たちが警察に追われるシーンはたくさん描写されていますが、実際に逮捕・投獄されたシーンは(過去回想以外には)ありませんでした。

 

一方『牢獄の半日』には、党活動で投獄された人物の獄中体験が記されています。

 

小林多喜二の作品とは違い、主人公の心の中の叫びが一人称の視点で詳細に描かれているのが特徴です。

 

興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

(小説前半に流血表現、後半に残虐表現ありなので、苦手な方はご注意ください)

www.aozora.gr.jp

 

*1: ;゚Д゚

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