こんにちは、world is aozoraです。
先日の記事で、青空文庫掲載作品の中から、今年の夏に読んでみたいホラー作品をいくつか挙げました。
explorer-of-the-aozora.hatenablog.com
本日は、そこで言及していた小説の一つ、ギルバート・キース・チェスタートン先生の『古書の呪い』を、紹介したいと思います!
チェスタートンといえば、「ブラウン神父」シリーズが有名ですよね。神父さんが難事件を解決するミステリー小説のシリーズです。
さて、『古書の呪い』はいったいどんなお話なのか?
ブラウン神父シリーズを未読の方も、この機会にぜひチェスタートン先生の世界に触れてみてください。
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作品の基本情報
タイトル:
古書の呪い(原題:THE BLAST OF THE BOOK)
作者:
ギルバート・キース・チェスタートン(Wikipedia)
読了目安時間:
1時間
文章の読みやすさ:★★★★☆
青空文庫掲載作品の中では、かなり読みやすい部類だと思います!
現代文と文章構造はほとんど変わらないですし、語彙も高校現代文とかと大体同じぐらいのレベル感です。
強いていうなら、「っ(促音)」が「つ」と表記されているのが、ちょっと引っかかるぐらいですかね。
あらすじ
心霊現象を研究するオープンショウ教授のもとに、老宣教師プリングルから不穏な手紙が届いた。
プリングルは、開いた者が必ず失踪するという呪われた古書について、教授に話を聞いてほしいと訴える。
古書の呪いは本物なのか? オープンショウ教授はプリングル師に会って、真偽を確かめようとするのだが、そこから不可解な事件に巻き込まれていく!
【結末まで知りたい方向け】 あらすじ続き
プリングルが呪われた古書に出会ったのは、西アフリカで布教をしていた頃。ある日、その地で親しくなったウエールズという大尉が、色褪せた古書を持ち帰ったのが始まりだった。
大尉はその本を開いた者が忽然と姿を消す瞬間を、その目で目撃したという。さらにその後、今度は大尉自身がプリングルの目の前で本を開き、そのまま姿を消してしまった。
プリングルはその本をイギリスに持ち帰り、元の持ち主と言われているハンキー博士という人に返そうと考えていた。しかしその前に、怪奇現象の専門家であるオープンショウ教授に、一連の出来事に対する考察を聞きたいと思い立ったのだという。
話を聞き終えたオープンショウ教授は尋ねた。
「あなたのその本はいまどこにあるんですか?」
プリングルは、本を教授宅の事務室に置いてきたと言う。しかし二人が事務室を訪れると、事務員として働いているベリッジの姿が消えていた。彼の机には、開かれた例の古書が残されていた。
ベリッジに連絡しようにも、教授は彼の自宅住所も連絡先も知らない。警察に相談しようにも、教授はベリッジの人相を説明できるほど詳細には覚えていなかった。
「こうなっては、元の本の持ち主であるハンキー博士に相談するしかない」
プリングルは放心状態のオープンショウ教授を置いて、一人で博士のもとへ急いだ。
その後、再び教授の元に戻ってきたプリングルは、ハンキー博士とのやりとりを報告した。博士は問題の本を引き取り、これまでの消滅事件にどう対処すべきか考えてみると伝えたらしい。
しかし、しばらくしてから二人がハンキー博士の自宅に向かうと、そこはもぬけの殻だった。テーブルの上には、呪いの古書が、たった今読んだばかりのように置かれていた。
その夜、教授は友人のブラウン神父と食事中に、プリングルからの電話で呼び出される。
「先生、わたくしはもうがまんができません。自分で見るつもりです。いまあなたの事務所から電話をかけているところで、本は目の前にあります。もしわたくしの身に何か起るとすれば、これがお別れの言葉になります。いや――お止めになつてもむだです。ともかく、もう間に合いますまい。わたくしはいま本をひらくところです。わたくしは……」
プリングルの声はそこで途絶えた。
オープンショウ教授はあまりのことにショックを受け、ブラウン神父に今日の出来事を打ち明けた。話を聞いた神父は、はっきりと言った。
「ねえ、オープンショウ先生、消滅した者などは一人もありはしませんのじや」
ブラウン神父の推理はこうだ。
今回の不思議な出来事は全て、事務員ベリッジによる巧妙な計画である。
まず、ベリッジはオープンショウ教授が自分に無関心であることを察知し、教授を騙すことができると考えた。
そこで、ベリッジはつけ髭とマントで変装し、「プリングル」と名乗って教授に接近する。これでは、教授が事務室で彼を見つけられないのも当然だ。彼が語った「アフリカでの不思議体験」も、もちろん全て作り話。さらにベリッジはハンキー博士という架空の人物まで作り上げ、自分の家を博士の家のように見せかけた。
真相を知ったオープンショウ教授は笑って言った。
「どうもこりや当然の報いでしような……わしは一番手近の助手に気がつかなかつたのですからな。しかし、あんなふうに事件が積みかさなつてくると、なかなか恐ろしいものだということは認めていただかねばなりますまい。あなたはあの恐るべき本にホンの瞬間でも畏怖を感じた覚えが絶対になかつたのですか?」
するとブラウン神父は言った。
「ああ、それじや。わしは事務所に置いてあるのを見たとき、すぐ開けてみました。全部真白でした。ホレ、わしは迷信家ではありませんからな」
感想
詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。
盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。
(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)
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推しポイント1:あなたもきっと騙される! 物語の意外な結末
はぁぁぁ〜〜、見事なまでに騙されました。
途中まで「ホラーじゃん! めちゃ怖いやつじゃん!」って思いながら読んでたんです。それが見事にどんでん返しをくらいました。
事務員ベリッジ、狡猾な男です。
でも、よくよく考えてみると、ベリッジは冒頭でボロを出していました。オープンショウ教授の前に最初に現れたとき、プリングル(= ベリッジ)は愉快そうにニヤニヤ笑っていたんです。
お読みになった皆さん、気づいていましたか?
私は二周目を読んで、初めて気がつきました(笑)
そりゃあ、ベリッジはさぞかし愉快だったでしょうね。彼の目論見通り、教授は全くプリングルの正体に気が付かなかったわけですから。
純文学系が多いイメージの青空文庫でしたが、本作はエンタメ要素のしっかり詰まった小説でした。面白かった〜〜!
推しポイント2:これが一期一会ってやつですか?
ベリッジが今回の事件を思いついた動機、私にはちょっと驚きというか、自分の気付いていなかったところを、チクリと刺されるような気持ちがしました。
私は人との接し方に関して、オープンショウ教授と似たタイプの人間です。
事務員さんの自宅連絡先を知ろうとは思わないし、顔の特徴もしっかり説明できるほど覚えているかと言われると、自信がありません。
おかげでプライベートで偶然相手に遭遇したとしても、多分気づかないし、数ヶ月会わなかっただけで、もう相手の名前と顔が一致しなくなっていきます。
なんか最近、人間関係が希薄だな〜と感じるのは、こうした自分の態度にも大きな原因があると思います。
しかし、ベリッジは違いました。教授のことをよく観察して、相手が自分に全く注意を払っていないと気付きました。これって、教授のことを普段から気遣っていて、ちゃんと相手を見ていたということなんじゃないでしょうか。
ブラウン神父との食事シーンでも、同様のことが描写されています。二人が食事したレストランは、オープンショウ教授が週5で通っている行きつけのお店でした。しかし教授は、そこのボーイとは特に仲良くありません。
一方、神父は2, 3ヶ月に1回しかそのレストランを訪れないのに、ボーイと気軽に雑談できるぐらいまで仲良くなっているのです。
ベリッジも神父も、関わった一人一人との出会いを大切にしているな〜、と尊敬の念を感じずにはいられませんでした。
まとめ
本記事では、G・K・チェスタートンの『古書の呪い』のあらすじと感想を書かせていただきました。この記事を通して、少しでも彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
改めまして、作品URLはこちら↓
おまけ:『古書の呪い』が好きな人にオススメの作品!
このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『古書の呪い』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。
次に読む本に困っているそこのあなた!
騙されたと思って読んでみてください。
オススメ1:『村の吸血鬼』G・K・チェスタートン
まずは、チェスタートン先生の別作品をご紹介! こちらもブラウン神父が活躍する物語です。タイトルに「吸血鬼」とありますが、実際の読み方は「ヴァムプ」。なんだかおしゃれですね。
この作品でも、ブラウン神父が鋭い推理で殺人事件の真相を解き明かします。驚きの結末を、ぜひその目で確かめてください!
オススメ2:『モルグ街の殺人事件』エドガー・アラン・ポー
次にご紹介するのは、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人事件』です。この作品は「世界で一番最初に書かれたミステリー小説」としても有名ですね。
母娘が惨殺された難事件に挑むのは、C・オーギュスト・デュパン。彼の名推理が冴え渡ります!