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『堕落論』(坂口安吾)あらすじ & 感想 | 青空文庫のオススメ作品紹介

こんにちは、world is aozoraです。

 

2024年8月8日、史上初の南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発令されましたね。

 

いや、怖すぎぃぃ。この一週間はホント、いつ緊急地震速報の不快なアラート音が鳴るかと、戦々恐々としながら過ごしております。

 

そうやって恐れ慄いているうちに、今度は東北で台風が悪さをし始めたようですね。

皆様、ご無事だといいのですが。

日本の自然ってやつは、ほんと人間に厳しい・・・

 

さて、気持ちを切り替えて。

本日は『堕落論』という作品を紹介していきます。

 

作者は 坂口安吾 先生。数ある彼の作品の中でも『堕落論』は、Wikipedia"坂口の代表的作品"と評されるほどの超・有名作品です。

 

一体どんな作品なのか、早速チェックしていきましょう〜 (๑•̀o•́๑)۶

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作品の基本情報

タイトル
堕落論(読み方:だらくろん)

作者
坂口安吾Wikipedia

読了目安時間
30 〜 40分

文章の読みやすさ:★★☆☆☆

難しめの表現が、そこかしこに散りばめられている印象でした。述べられている内容も複雑なため、深く読み通すには少し根気が必要そうです。

特に、第一段落の初っ端で心折れる方が多いのではないでしょうか。

 

ただ逆に言うと、そこさえ乗り越えてしまえば、あとは何とかなる気もします(ソースは私)

途中で「この文章は、何が言いたいんだろう・・・?」と迷うことがあっても、とりあえず最後まで進んでみてください! 分からないところは、後から考えればいい!

 

あらすじ

ここからは『堕落論』のあらすじを紹介していきます!

が、そもそも堕落論は小説ではなく、随筆・論説文の類です。「起承転結」とか「驚きのどんでん返し」とか、そういったストーリーらしい要素は特にありません。

そこで、ここでは作中で述べられた主張を、なるべく「簡単」かつ「分かりやすい」を心がけながら、要約してみようと思います。

 

分かりやすさを追求した結果、ところどころ文章の意訳が発生しています。

また私のような読解力底辺人間には少々難しい内容でしたので、もしかしたら解釈が間違っているところもあるかもしれません。

「それでもいいよ!」という方は、続きに進んでいただければと思います (* ᴗ ᴗ)⁾⁾

 

また激しくネタバレになるので、前情報なしで本編を読みたい方は、そっとこのページを閉じてください

なんなら、本編のリンクをもう一度貼っておきます。

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【ネタバレ注意】『堕落論』の内容を分かりやすく要約!

堕落論は章立てのない一続きの文章ですが、可読性を上げるため(あと自分でもこんがらがりそうだったので)、意味段落を分けてみました。

また、ところどころ内容の順序が原作と前後します。

ご留意くださいませ。

 

1. 戦後の変貌と人間の本質

第二次世界大戦が終わった直後の時代背景を前提にしています。この時代、戦争の傷跡がまだあちこちに残っているにもかかわらず、人々の心はすでに戦争から離れ始めていました

例えば、戦場では若い兵士が命を散らして戦いましたが、その生き残りたちはすでに闇市を開いて逞しく生活しています。戦地へ送り出した夫を失った未亡人だって、新しい恋に胸を躍らせるのも、そう遠い未来ではないでしょう。

 

どうして人々は、このように心変わりしてしまうのでしょうか。

戦争に負けたことで、戦時に誓った忠誠を捨ててしまったから?

 

坂口先生によると、そうではありません。

戦争の勝敗は関係なく、人間とはそういう性質ものだ、と言うのです。

2. 人間の「弱さの本質」と政治

彼によると人間は元々、理想としているはずの「高潔さ」や「美しさ」を、案外あっさり手放してしまうもの。

だからこそ、戦時中には未亡人の恋愛を描く小説が禁止されました。政治家たちは女性がいかに簡単に心変わりをするかを知っていたのです。

女性たちを散っていった夫たちに対して一途でいさせ続けることで、戦意を高めようとしたわけですね。

 

このような事例は、歴史上にもみられます。

たとえば武士道。これは武士たちが主人に忠実に仕えるための高貴な心得を規定したものです。

しかし、逆に言えば、もし武士道という規則がなければ、彼らは命を賭けてまで主人に奉仕しなかったのではないでしょうか? 

 

武士道は武士として理想的な行動を規定しました。しかし、武士もやはり人間です。ときには命の危険を恐れることもあれば、敵に寝返ることもあったでしょう。

そうした「人間的弱点」を抑え込むために、支配者たちが考え出したのが武士道だったのではないでしょうか(未亡人の恋愛小説禁止にも、通じるところがありますね)

 

「義理のためなら命を賭ける」というのは、一見、人間の生存本能に反した規範のようですが、実は人間の弱さを知り尽くしていたからこそ、その弱さを抑え込もうとして作られた法則だったのです。

 

 

また天皇も、同じような側面を持つと言います。

平安時代の実権を握った藤原氏も、天下統一を果たした豊臣秀吉も、自分より上の存在として必ず天皇を尊びました。

 

彼らはなぜ、天皇を押し退け、自分でトップにならなかったのか?

それは「天皇を尊ぶ」という大義名分を掲げることで、自分自身の威厳・高潔さを人々に示すためであり、自分自身でその威厳・高潔さを体感するためでした。

 

時の権力者たちは、「天皇を尊ぶ」という行為の美しさを巧みに利用し、人々を従わせていたのです。

 

3. 偉大な破壊と堕落

人間は高潔さ・美しさに憧れ、規則を作ってそれを守ろうとするものの、結局は自身の内に持つ弱さによって流されてしまいます。しかし坂口先生は、かつて人々が非人間的なまでの美しさを持って生活していた時を知っていました。

 

それは戦争末期の東京。相次ぐ爆撃によって、街は燃え、帰る場所を失った人々がぼうっと座り込んでいたり、焼け跡を掘り返したりしている光景です。

この「偉大な破壊」と呼べる情景の前で、人々は自分の運命を受け入れ、無心で、無欲に、ただ目の前の生活を生きていました。

このとき、人々の間に「堕落」は一切ありませんでした。

 

しかし戦争が終わり、自由が手に入ると、人々は自分が今までどれだけ不自由な生活を強いられていたかに気がつきました。ようやく、人間らしい欲求を思い出したのです。

彼らは戦時中に見せた非人間的な美しさを失い、堕落しました。なぜならそれが、人間の本質だから。"それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人を救うことはできない" のです。

4. 堕落とどう向き合うべきか

人間は生きている限り堕落し続けますが、永遠に堕落を続けられるほど強くもありません

 

美しいものは、ずっと美しいままでいて欲しい。

高潔なものは、ずっとその高潔さを貫いてほしい。

そしてあわよくば、自分も美しく高潔でありたい。

 

誰もが心の中に、こうした願いを持っています。

だからこそ、純潔を守って心中した男女には同情が集まり、また坂口先生自身も、壊れそうなほど儚い美しさを纏った姪が自殺を選んだとき、安堵の情を覚えたのです。

堕落を続ければ、やがて人々は高潔さや美しさを求めるようになるでしょう。

 

しかし、どのような「高潔さ」や「美しさ」を求めるべきなのでしょうか?

 

その答えを見つけるためには、人は自分自身を見つめ直し、正しく堕落の道を堕ちきることが必要です。最後に彼の言葉を借りるなら、

堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物

でしかないのです。

 

感想

詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは感想編です。

引き続き、盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。

(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)

 

。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

本作、考え抜かれた思考の結晶すぎる件

まずは読了後コメントを一言。

堕落論、めっちゃ深いっすね(小並感)。

 

なんというか、隅々まで思索が行き届いている感じがしました。

 

読んでいる最中は「今、この人は何を伝えたいんだろう」と首を傾げるパートがいくつかあった気がしたのに、最後まで読んでから振り返ると、なぜかだいたい腑に落ちている、というか。

学術論文のように理論的な文章構造をとっていない、パッション全開寄りな文章のはずなのに、知りたいことがなぜか全部網羅されている、というか。

 

本当はこの感想パートで、「堕落論でいう武士道や天皇制とは、何を表しているのか?」を考察しようと思っていたのですが、あらすじパートで全部書き切ってしまいました笑

 

武士道が重んじられたのは、人間の弱さを押し込めるため。

天皇制が尊ばれたのは、弱さを利用するため。

 

戦後。戦中。それ以前の歴史。人類が積み重ねてきた記録の全てから、これらのことを裏付けられちゃいましたね。

もう私のような未熟者が、追加で考察できることなんて微塵も残ってません。

完敗です。

 

とはいえ、おそらくこの解釈には、私の主観がたっぷり含まれています。というか主観しかない。主観100%・添加物なしの天然ものです。

きっと別の方が読めば、また別の解釈があり得るのだと思います。

 

実際、ググってみるといろんな考察が、わんさか出てきて面白いです。

もっといろんな人の意見も聞いてみたい・・・.。゚+.(*''*)゚+.゚

 

 

非人間的な美しさについて

最後のパートに、戦火に呑まれた東京で人々が見せた、非人間的な美しさが述べられていましたが、あの部分、すごく印象的でした!

 

パニック映画とかの影響か、極限状態の人間といえば殺伐として争い合っているイメージだったのですが、一気に覆されました。燃え盛る東京を実際に生き抜いた坂口先生だから語れる「美しさ」だったと思います。疎開の誘いを断って、わざわざ危険区域に残った甲斐がありましたね(何様目線)

 

そしてその後に続く、「非人間的な美しさで、人は救われない。正しく堕落する道を探すべき」というところもハッとさせられました。

 

私にも「目の前に存在する生活に満足する無欲さがあれば、人生はどれだけ幸せに見えるだろう」と、精神的潔癖とでも言えるような夢想に耽る瞬間があります。

でも、それだけでは人は幸せになれない。というか、そんなことを実現するのは人間である限り不可能だし、また人間として不十分なのだと思います。

 

無欲ということは、新しいものを求めないということ。つまり、進歩を求めないということです。

でも、自分だけが進歩を求めなかったとして、他の人はどうでしょうか? 周囲は進歩していく中、一人だけ取り残されることになるかもしれません。

 

もしそうでなくても(つまり全人類が進歩を求めず無欲に生きられたとしても)、人間以外の存在はそれを許してくれるでしょうか?

環境は刻々と変化し、自然はいつも人間に厳しい。

地震も台風も、人間のために止まってはくれません。

 

 

昔、SNSで見た話で、こんなものを思い出しました。

とある地震が起こったとき、はじめの方こそ被災者たちは一日一日をただ懸命に生き抜いていました。しかし、日が経つにつれて、彼らの口からは避難所の環境などについての文句が出始めたそうです。

 

人間が本質的に無欲な生物であれば、もしかすると被災後の極限状態にすら満足し、文句の一つも出てこなかったかもしれません。しかしそれで満足してしまっては、いつまで経ってもその地は復興しないままです。

不満があるからこそ、現状を変えようとする力が働く。

だから人は、前に進んでいけるのだと思います。

 

また、同じ被災地の情報について、SNSではこんな意見もありました。

「文句が出るのは、被災者の方々が活力を取り戻し始めている現れ。良い兆しだ」

 

これも堕落論の最終パートに、そのまま当てはまるんじゃないでしょうか。

戦禍の東京を生きた人々は、不満の一つも口にせず、ただがむしゃらに生きていました。でも戦争が終わって自由を手にすると、人々は今までの生活がどれほど不自由だったか思い知り、「堕落」していきます。

 

ここでいう「堕落」こそ、被災地で出始めた「文句」に相当するものだと、私は思います。

 

人間に必要なのは「どんな苦難でも受け入れる高潔さ」ではなく、「現状の苦難に不満を抱き、その原因を正しく分析することで、改善していくエネルギー」である。

 

"人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要" というのは、そういうことなんじゃないかと、ふと感じました。

 

まとめ

本記事では、坂口安吾の『堕落論』のあらすじと感想を書かせていただきました。この記事を通して、少しでも彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

改めまして、作品URLはこちら↓

www.aozora.gr.jp

 

おまけ:『堕落論』が好きな人にオススメの作品!

このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『堕落論』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。

次に読む本に困っているそこのあなた!

騙されたと思って読んでみてください。

 

オススメ1:『白痴』坂口安吾

おすすめ1作目は『白痴』です。

こちらの作品の舞台となるのは、『堕落論』でも出てきた「爆撃にさらされた東京」です。

戦争末期の街を生きる主人公が、白痴の女と共に過ごした日々の結末はいかに。

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オススメ2:『続堕落論坂口安吾

続いてのおすすめは『続堕落論』です。

2作目も同じ作家さんで、バラエティに欠けるおすすめになってしまっていますが、こちらもぜひ読んでほしいのです。

 

なんといっても、「続」堕落論ですからね。

タイトル通り、堕落論と同じテーマについてさらに別視点も交えながら、深く語ってくださっています。

これを読めば、『堕落論』を読んでなんとなく分かった気になっていたところを、より深く理解できるかもしれません。

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ちなみに私は、『堕落論』の感想を書き上げてから『続堕落論』を読んだので、自分が書き連ねた解釈が大間違いをしていないか、ヒヤヒヤしながら読み進めました笑

(多分、概ね合っているはず・・・大間違いに気づいた方はコメントなどでご一報ください!)

 

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