『二十六夜』宮沢賢治 — あらすじと感想 | 青空文庫のオススメ作品紹介

諸君は、『二十六夜待ち』という行事を御存じだろうか?
御存じない。それは大変残念である。
では諸君は、二十六夜と呼ばれる日に、
そして諸君は、かの尊き
御存じない。
ああ、それは大変残念である。
では諸君は、まず宮沢賢治の『二十六夜』を一読しなければなるまい・・・・・・
こんにちは、world is aozoraです。
ここまで、坂口安吾の『風博士』のオマージュをお送りしてきましたが、いかがだったでしょうか。
おそらく、全く頭に入ってこなかったと思います(笑)。
というわけで、改めまして。
皆さんは『二十六夜待ち』とは何か、御存じでしょうか。
これは、毎年、旧暦の 1月26日 と 7月26日 の夜に、お月様に向けてお祈りをするという、江戸時代に行われていた仏教行事です。
二十六夜の日には、彌陀・観音・勢至という三人の仏様が月光の中に姿を現すと言われているそうですよ。
本日紹介するのは、そんな二十六夜を題材にした小説です。
タイトルは、ズバリ、『二十六夜』。
ただしこの小説では、二十六夜に姿を現すのは、彌陀・観音・勢至ではありません。
なんとあの、
「いや、誰だよ」って感じですよね(笑)
それもそのはず。
実はこの三人、人間ではなく、フクロウたちが信じている神様なのです。
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作品の基本情報
タイトル:
二十六夜(読み方:にじゅうろくや)
読了目安時間:
40分〜50分
文章の読みやすさ:★★☆☆☆
物語の内容自体は、めっちゃ分かりやすい!・・・のですが、平仮名が旧字だったり、仏教風の見慣れない漢字が並んでいたりで、読了までのハードルが高めかもしれないです。
特に、冒頭シーンが鬼門ですね。
このシーンでは、夜の森で1羽の梟が、とあるお経を読み上げます。興味ある方はチラッと本文を覗いてみてほしいのですが、もはや呪文のような文章ですよね(笑)
これを初見で理解できる人は、おそらくいないと思います。
が、心配はご無用!
この記事でも後ほど紹介しますが、実はこのお経の内容は、作中でしっかり丁寧に解説されます。
最初のシーンで諦めず、進み続けるのが肝心です!
あらすじ
旧暦六月二十四日の夜、星々が瞬く中、一羽の坊さん梟が説法を唱えていました。
その説法に集まっていたのは、たくさんの梟たち。幼い梟たちも、坊さんの言葉に耳を傾けています。
その中でも、穂吉という名の梟は、歳のわりに落ち着いた子供でした。他の兄弟たちが説法に飽きてサボりに行ってしまっても、一人残って、最後まで熱心に話に聞き入っているような子でした。
しかし、翌六月二十五日。悲劇が穂吉を襲います。
森で遊んでいた穂吉は、人間の子供に捕らわれてしまうのです。
彼は一体どうなってしまうのでしょうか・・・?!
【結末まで知りたい方向け】 あらすじ続き
家族や仲間の梟たちが様子を見に行くと、穂吉は紐で厳しく縛られていました。助けたい気持ちでいっぱいでしたが、人間の家は厳重に戸締まりされており、梟たちが入る隙はありません。
そして次の日。六月二十六日には、さらなる残虐な行為が穂吉を襲います。
飽きてしまった人間たちは、穂吉の足の骨を折って森に放置してしまったのです。
大怪我を負い、意識が朦朧としている幼い穂吉。彼を取り囲む仲間たちは、怒りに震えました。
「人間に復讐しよう!」
しかし、坊さん梟は静かに諭します。
「復讐はさらなる復讐を生む。今は人間に仕返しをしても、次はもっと酷い仕打ちがこちらに返ってくるのだぞ」
その言葉で仲間たちは、なんとか思いとどまり、再び坊さん梟の説法に耳を傾けます。
そして、月が昇ってきた頃、奇跡が起こりました。
この日は、『二十六夜』のちょうど一ヶ月前。梟たちの信心が通じたのか、月から紫色の煙のようなものが花火のように吹き出し、その上に三人の仏の姿が現れたのです。
梟たちは仏様に、祈りの言葉を高く唱えます。
そして、仏たちが姿を消す頃には、穂吉は微笑みを浮かべながら息を引き取っていました。
感想
詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。
盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。
(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)
。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。
推しポイント1:穂吉ちゃん・・・ 。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁん
皆さん、エンディング読みました????
穂吉ちゃんは何にも悪いことしてないのに、捕えられて、足を折られて・・・。最後には帰らぬ人に —— いや、帰らぬ梟になってしまいました。
そんな悲しいことある?!
これは仲間の梟たちが、復讐してやりたくなる気持ちも分かります。
人間どもめ、命をなんと心得るか・・・!
しかしその直後に、坊さん梟が言っていた、「復讐は何も生まないどころか、事態を悪化させる」というもの、非常に納得感がありました。
穂吉ちゃんのことは、悲しいし悔しい。
でも多分、人間たちは穂吉を殺したことを何とも思っていない。
だから、もしここでフクロウが復讐に出れば、人間は「何もしていないのに、急に梟が攻撃してきた」と認識してしまう。
こうなればもう、泥沼確定ですよね。
きっと人間側は、もっと酷い仕返しを始めると思います。森の梟たちを、狩り尽くして根絶やしにするとか・・・コワイヨ(꒪⌑꒪.)!!!
穂吉ちゃんが最後に笑っていたのが、せめてもの救いでしたね。
推しポイント2:人間視点で、改めて読み返すと・・
さて、穂吉ちゃんのことが悲しすぎて心を乱されていた私ですが、このあと冷静になってから、もう一周ストーリーを読み返しました。
そして、あることに気がつきました。
穂吉の足を折ったのは、人間の子供なんですよね。
森へやってきた彼らは、穂吉を捕らえはしましたが、最後には自由にしてやりました。
その際、ついでと言わんばかりに足を折っていましたが、彼らにしてみるとただの悪ふざけで、「まさか足を折っただけで、死んでしまうとは思わなかった」のではないでしょうか。
人間なら、骨折しても何とかなりますもんね。
穂吉を捕らえた子供たちは、自分たちにとっての悪ふざけが、フクロウにとっては命に関わる危険な行為になるということが、分からなかったんじゃないか、と読んでいてふと感じました。
(それにしても、足を折るのはやりすぎな気がしますけどね)
まあでも、こんなふうに、こちらにそのつもりがなくても、相手を深く傷つけてしまうことって、結構あるんじゃないかと思います。
子供だけじゃなく、大人でも。
「生きとし生けるものは、みんな平等に大切にしよう」って、月並みだけど、無意識に誰かを傷つけてしまわないためにも、やっぱり大事な心がけなのかも。
でも、一方で、あまりに全ての物事に感情移入していたら、それはそれで今度は自分が立ち行かなくなるな〜という気持ちもあったり。
だって、動物が可哀想だからって、肉を食べるのをやめるわけにはいかないし。
いや、肉だけだったら止められるかもしれないけど、今度は「じゃあ、植物は食べてもいいの?」って話になります。植物だって生きているのに。
どこまで大切にして、どこから冷酷になるか。
生きるって、難しいですね。
推しポイント3:お経を解読していく快感
ここまで結構、真面目な話をしてきたわけですが、最後に一つ。
坊さん梟、説法、上手すぎか?!
最初は意味のわからなかったお経が、坊さん梟の解説を読んでいくにつれて、どんどん自然にわかるようになっていって。
最後には、お経を原文のまま読んでも、スラスラと意味がわかるようになりました。
‧˚₊*̥(∗︎*⁰͈꒨⁰͈)‧˚₊*̥ ヨメル、ヨメルゾ‼
教えるのうますぎて、びっくりしました。
坊さん梟、もし出家してなかったら、人気塾講師か何かになってたと思います(笑)
しかも、説法の内容もめっちゃ良かったですね。
例えば、お経の中にあった「生きるために、小鳥やタニシたちを平気で犠牲にする。それがどれだけ罪深いことか」というくだり。
言われなくても想像がつくはずなのに、言われるとやっぱりショックを受けるものです。
捕食される小さな生命たちが、最後の瞬間にどんなに苦しくて辛いか!
狩のたびに、その苦悶を目の当たりにしてきたのにも関わらず、ずっと無感動でいた。それどころか、彼らの犠牲を当たり前のように考えていた
生きるためとはいえ、なんて残酷なことをしてしまったのだろう。
小鳥やタニシに謝りたい・・・。
まあ、私、梟じゃないので、小鳥やタニシを捕食したことはないんですけどね。(笑)
内容を変えれば人間にも当てはまるものですし、ジクジクと痛むように、じっくりと心に染みてくる説法でした。
仏教のありがたい教えが、梟たちの生活に合わせて違和感なくカスタマイズされていて、すごいな〜と感心してしまいました。
作品にもその経験が、しっかり活かされています。
まとめ
本記事では、宮沢賢治の『二十六夜』のあらすじと感想を書かせていただきました。
この記事を通して、少しでも彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
改めまして、作品URLはこちら↓
おまけ:『二十六夜』が好きな人にオススメの作品!
このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『二十六夜』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。
次に読む本に困っているそこのあなた!
騙されたと思って読んでみてください。
オススメ1:銀河鉄道の夜 | 宮沢賢治
言わずと知れた名作、銀河鉄道の夜!
こちらも切ないエンドが必見の作品です。
未読の方はぜひ。
オススメ2:最後の一枚の葉 | オー・ヘンリー
続いては海外の作品から。
青空文庫では『最後の一枚の葉』という題名ですが、『最後の一葉』と訳されていることも、多いような気がします。
「窓からみえる木の葉っぱが全て落ちたら、私も一緒に死ぬ」と宣言するジョンジー。彼女を何とか救いたいスーですが、一体どうすればいいのやら・・・。
こちらも、切ないエンドが胸を打つ名作です。