青空文庫 開拓室

青空文庫作品のあらすじと感想。ときどき考察。

『イワンのばか』あらすじと感想 | 青空文庫のオススメ作品紹介

『いいとも、いいとも。』主人公の全肯定ワードが、悪魔たちを翻弄する ——

 

こんにちは。world is aozoraです。 

突然ですが、皆さんは「イワンのばか」というキャラクターを知っていますか?

なかなか攻めたネーミングですが、実はこの人、ロシアの民話にたびたび登場する、定番キャラらしいです。

 

本日は、そんな「イワンのばか」が登場する数ある作品のうち、トルストイという人が書いた小説を紹介していきます。

この作品は、イワンが出てくる物語の中でも特に有名で、日本では小説に加え、絵本も発売されているそうです。

 

そタイトルはズバリ、『イワンのばか』。

主人公の名前を、そのままタイトルにしています。

ストレートで潔いですね。

 

一体、どんな物語なのか、さっそく見ていきましょう!

 

作品URLはこちら↓青空文庫のページに飛びます)

www.aozora.gr.jp

 

『イワンのばか』の基本情報

小説の基本的な情報は、こちらです。
 
タイトル
『イワンのばか』(原題:SKAZKA O IVANE-DURAKE)
 
作者
 
翻訳者
 
読了目安時間
60分
 

あらすじ

昔々、とある田舎の金持ち百姓には三人の息子がいた。
 
兵隊として王に仕える長男・シモン、
街へ出て商人として活躍中の次男・タラス、
そして三男・馬鹿のイワンである。
 
シモンもタラスも稼ぎは良いのだが、シモンは金の管理が甘くてすぐに浪費してしまうし、タラスはいくら稼いでも満足できないほど貪欲だった。
おまけに、二人とも実家に孝行する気の全くない不孝息子たちであった。
おかげで年老いた父親のために働いているのは、イワンとその妹だけである。
 
 
そんなある日、シモンとタラスがそれぞれに実家を訪れて、「家の財産の三分の一ずつを分けてくれ」と父親に頼みに来た。
 
兄二人に財産をあげてしまっては、イワンと妹に申し訳が立たない。
そう感じた父親は、兄たちに向けてこう諭す。
 
「イワンがなんと言うか聞いてごらん」
 
しかし、兄たちがイワンに財産のことを話に行くと、彼は笑ってこんなことを言うのだった。
 
「何でも要るだけ持って行くがいい。私はまたかせいで手に入れるよ。」
 
こうして、超超超・おひとよしなイワンのおかげで、遺産争いは丸く収まった。
 
 
ところがそれを、とある老悪魔が見ていた。彼は自分に付き従っている三人の小悪魔に向かって「イワンたち3人の仲を悪くして、苛烈に争わせろ」と命令を出す。
 
これを受けて、さっそく仕事に取り掛かる小悪魔たち。
果たしてイワンの運命は ——。
 

『イワンのばか』はこんな人におすすめ

こちらの作品は、以下のような読者さんに特におすすめです。

童話風のストーリーが好きな方

ジャンルで言えば民話に当たるこの作品は、全体的に西洋の童話チックな世界観になっています。
 
また読み進めていくと、日本昔話よろしく、作者が伝えたいメッセージ(教訓)がはっきりと伝わってくるところも、特徴の一つだと思います。
 
「童話風の作品が大好き」という方はもちろん、「昔は童話を読んでいたけれど、最近は全然」という方にも、ぜひ楽しんでいただきたい一作です。
 

痛快なストーリーが読みたい方

「イワンのばか」という語気強めの題名から、主人公が可哀想な目に遭うお話ではないかと想像されている方もいらっしゃるかもしれませんが、全くそんなことはありません
 
むしろ逆です。
 
たしかに、イワンは冒頭こそ、兄たちに財産を取られた挙句に悪魔の標的にされるという、踏んだり蹴ったりな状況に陥っています。
 
しかし、その後、彼は持ち前の人の良さで悪魔たちを翻弄していきます。
 
時折出てくる悪魔たちとの痛快なやり取りは、必見です。
 

「難しい表現や単語が出てくる小説は苦手・・・」という方

青空文庫に掲載されている小説には、「普段、あまり読書をしないよ」という方にとっては読みづらいような、お堅い文章の作品も多数あります。
 
しかし、こちらの作品に関しては、難しい単語や言い回しは少ない印象でした
 
文章を読み慣れていない方だけでなく、難しいことをアレコレ考えずにサクサク読み進めたい、という方にもオススメ出来る作品です。
 
 
 
 

感想(ネタバレ注意!)

ここまでは『イワンのばか』のあらすじと、作品の特徴について解説してきました。
 
詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。
 
盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。
 
(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)
 

推しポイント1:身につけた力は裏切らない!

推しポイントの一つ目は、作中で繰り返し出てきたメッセージである「手を動かして働くことの大切さ」にまつわるものです。

まず長男のシモンは、大きな領地を持てるほどに、軍事的な権力を持っています。さらに次男のタラスは商人としてそこそこ成功し、さらには金持ちの商人と結婚することで、巨万の富を得ています。

この二人、物語の中盤ではそれぞれが一国の王様になるほどの、大成功を収めています。

しかしその成功の元になったのは、イワンが小悪魔たちから手に入れた「兵隊を作る魔法」や「お金を作る魔法」。

シモンもタラスも魔法の力で、自分の実力に見合っていない地位へと、一気に上り詰めてしまいました。

 

でも、いくら大きな権力や富を手に入れたって、それを維持できるだけの優れた能力がなければ、やがては没落するものです。二人の兄たちも例にもれず、老悪魔にそそのかされ、またたく間にその地位を失ってしまいました。

 

一方、イワンは富や名声には興味がなく、ただひたすら自分自身や家族を養うために、汗水垂らして働きます。

その過程で、彼が「自らの手を動かして」身につけた農業の技能や根性は、たとえ悪魔の力を持ってしても、そう簡単に奪い去れるものではありません

おかげでイワンは、兄たちが悪魔の計略に落ちて無一文になるのを横目に、何度悪魔にそそのかされても純朴に農業を続け、自分の努力に見合った穏やかな生活を送ります。

 

誰しも、魔法で成り上がって楽勝人生を送りたいと夢見ることもあるでしょう。

しかし結局、最後にものをいうのは「どれだけ自分の体を使って、能動的に動いたか」や「これまでどれだけ、目の前の物事に真面目に取り組んできたか」ということなのだろうな、物語を通して改めて感じました。

やはり努力は裏切らない!とポジティブな気持ちになれるストーリーでした。

 

 

 

・・・・・・と、私はこのように解釈したわけですが、こちらの作品は「社会主義の賛美を賛美している」と捉えられることもあるようです。

確かに言われてみれば、物語の終盤に出てくるイワンの国では、資本主義の気配は鳴りをひそめ、なんなら通貨すら存在せず、みんな農業をしながら助け合って暮らしています。共産主義が目指していた理想世界に、近いのかもしれませんね。

そう考えると、シモンの国は軍国主義、タラスの国は資本主義を揶揄したもののようにも、見えてくるような気がします。

色々な考察があって奥深いですね。

 

推しポイント2:年寄り悪魔の策略

推しポイント2は、物語後半で老悪魔が仕掛けてくる策略の内容。
 

最初の三人の小悪魔と比べて、年寄り悪魔は、人間が思わず引っかかってしまう巧妙な罠を仕掛けてきます。

 

例えば、軍事的な権力を手に入れてイケイケ状態のシモンには、「もっと軍隊を拡充すれば、この国はもっと強くなりますよ」と甘い誘惑を吹き込みました。

この軍事拡充作戦、何が怖いって、最初のうちはいい感じに成功してしまうんですよね。

だからこそシモンは調子に乗って、勝てない相手に戦争を仕掛けます。その結果、彼の国は壊滅しました。

 

一方、大金持ちになってウハウハなタラスの元に、老悪魔は金払いの良い商人として現れて、周囲の民衆に金銭をばら撒きます。これによって、タラスの国の税収は大幅にアップ!

タラス王、さらにウハウハです。

これに気を良くした彼は、ついうっかり新しい御殿の建設なんて始めちゃいます。

しかしその頃には、人民はみんな老悪魔の方に付き従ってしまい、宮殿の建設は一向に進みません。最後には建設プロジェクトは大赤字を出し、タラスは収入も財産も全て失います。

 

この二つの罠に共通しているのは、「つい調子に乗ったところを叩き潰す」というポイント。

人間みな、勢いに乗っているときほど欲が出てしまうものです。あとちょっと、あとちょっとだけと背伸びをし続け、気づけば引き返すことのできないどん詰まりまで追い込まれてしまう・・・・・・。

老悪魔は、この心理にうまくつけ込みました。

 

もしこの悪魔が実在したら、私もついうっかり計略に乗せられてしまうかも。

恐ろしや。

 

しかし、こういう人類共通の弱みみたいなところを再認識できるというのも、小説を読む楽しみの一つですよね。

作家の皆さんにはこれからも、様々な人間心理を文章に起こしていってほしいです (*´꒳`*)

 

まとめ

本記事では、トルストイの『イワンのばか』のあらすじと感想を書かせていただきました。
 
この記事を通して、少しでも『イワンのばか』やトルストイの作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。
 
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
 
 
改めまして、作品URLはこちら↓青空文庫のページに飛びます)
 

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おまけ:『イワンのばか』が好きな人にオススメの作品

このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『イワンのばか』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。
 
次に読む本に困っているそこのあなた!
騙されたと思って読んでみてください。
 

オススメ1:『賢者の贈り物』| オー・ヘンリー

おかたい哲学系小説より、お伽話っぽい雰囲気の作品が好きだよ! という方へ。
『イワンのばか』は悪者を追っ払う系のお話でしたが、こちらは心温まる系の名作です。
言わずと知れた名作ですが、未読の方はぜひ。
 

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オススメ2:『うまい商売』| ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール・グリム & ヴィルヘルム・カール・グリム

かの有名なグリム童話からのご紹介。
あまり有名なタイトルではないですが、「主人公がド天然」というところが、イワンのばかと共通しています。
しかし、こちらの物語の主人公は、イワンほど単純で純朴な青年ではないのかも・・・?
 
 
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