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『高瀬舟』(森鴎外)あらすじ・感想 | 青空文庫のオススメ作品紹介

喜助。お前何を思っているのか。| 森鴎外『高瀬舟』より

こんにちは、world is aozoraです。

 

当ブログは毎週火曜・金曜の週2回更新で続けていたわけですが、先週、ついにやらかしてしまいました。

なんと、金曜日分の記事投稿が間に合いませんでした。

 

これで、world is aozoraには記事のストックが1個たりとも残っていないことが、皆さんにバレてしまいましたね・・・。お恥ずかしい限りです。

 

え。

金曜分の記事が上がってないなんて、全然気が付いていなかった?

 

もしや、言わなきゃバレなかった・・・ってコト?

ワ・・・ワァ・・・

 

まあ、バレちゃったものは、しょうがないですもんね。これからもこんな感じで、ゆるく長く投稿を続けていければと思います。

さて気を取り直して、本日は、森鴎外の『高瀬舟を紹介していきますよ!

 

作品URLはこちら↓

www.aozora.gr.jp

 

作品の基本情報

タイトル
高瀬舟(読み方:たかせぶね)

作者
森鴎外Wikipedia

読了目安時間
20 〜 30分

文章の読みやすさ:★★★★☆

森鴎外の代表作である『舞姫』で心折れた皆さん、朗報です!

こちらの作品は『舞姫』と比べると、かなり現代文に近い表現で書かれています。さすが、中3の国語の教科書に載るだけあって読みやすい✨

ところどころに現代は見ないような単語が出てくるものの、それほど多くはない印象でした。

あらすじ

江戸時代後期、京都の高瀬川を時折ゆく高瀬舟。そこには、遠島(= 流刑)を言い渡された罪人と、彼を護送する同心の姿があった。

 

ある春の夕暮れ、同心の羽田庄兵衛はねだしょうべえは、喜助という罪人を護送する。住所不定の30代で、青白く、やせ細った体つきの男である。聞くところによると、彼は弟を殺した罪で、流刑に処されることになったらしい。

庄兵衛はこれまで、高瀬舟で護送されていく罪人たちを多数見てきた。罪人たちは皆往々にして、自分の犯した罪や残していく家族を想い、悲嘆に暮れたものだった。

しかし喜助は違う。どういうわけか彼は、今にも口笛を吹くような、晴れやかな様子を見せている。

 

不思議に思った庄兵衛は、彼に尋ねる。

『喜助。お前何を思っているのか。』

彼が語った、事件の真相とは・・・。

 

【結末まで知りたい方向け】 あらすじ続き

 

喜助は罪を犯す前、極貧生活を強いられていた。毎日、骨身を惜しまず働いても、その日を生き延びるのにギリギリ足りる程度の賃金しか得られない。それすら得られないときもあって、そんなとき彼は借金をしてなんとか生活費を工面していた。豊かな京都の町の中、彼には自分のいていい場所というのを、見つけられずにいた。

それが殺人の罪に問われた今、彼は初めて、流刑先の島という居場所を得た。しかも懐には、おかみがつかわしてくれた二百もんがある。

喜助は「島に着いたら、これ元手に新たな商売でも初めてみようかと思っている」と前向きに語った。

 

庄兵衛はこの話を、自分の身の上に当てはめた。彼には同心という安定した仕事があり、妻子もいる。しかし生活は質素なもので、稼いだ金がすぐに生活のために消えてしまうという点では、喜助と同じに思えた。

ただ喜助には欲がなく、足りるということを知っていた。こが庄兵衛との大きな差だった。

喜助は仕事の得がたいときにはギリギリ糊口を凌げる程度で満足し、流刑となった今では働かなくても食が得られるのに満足している。一方、庄兵衛は収支がなんとか釣り合う程度の今の生活では、全然満足できなかった。

もし自分がクビになったら?

もしくは、大病にでもなって働けなくなったら?

そう考えると恐ろしくて、もっと多くの稼ぎがあればと願ってしまうのだ。

こうした欲望は際限を知らず、もっともっとと膨れ上がっていくもの。これは人間誰しもが抱える普遍的な感情だ。庄兵衛はそう思っていた。

しかしこの際限ない欲望を、感じずにいることも可能なのだ。それを実際にやってのけたのが、この喜助だ。

庄兵衛は喜助に、尊敬の念を感じずにはいられなかった。

 

 

彼はその後、喜助に「なぜ弟を殺めたのか」と尋ねた。

喜助の弟は重い病気を患っていた。喜助は弟の分まで必死に働いたが、弟はそれを常々申し訳なく感じていた。そしてあるとき、少しでも兄の生活を楽にしようと、自殺を試みた。

彼は剃刀で自身の喉笛を切ろうとするが、失敗。死ねずに苦しんでいたところを、喜助が発見する。

 

弟は息も絶え絶えになりながら、こう言った。

「喉に刺さった剃刀を抜いてくれ。そうすれば自分は、苦しまずに死ねる

 

喜助は最初、医者を呼びに行こうとした。しかし弟は、自分を殺してくれと繰り返すばかり。その必死の懇願に耐えかねて、喜助は弟の剃刀を引き抜いてしまった。そしてちょうどその瞬間を、近所のお婆さんに見つかってしまったのだった。

 

「これが弟殺しと呼べるだろうか」と、庄兵衛は訝しんだ。

弟は放っておいても亡くなっていただろう。喜助は弟が苦しむ時間を短くしようとしただけだ。確かに人殺しは許されない罪だ。しかし、それが苦しみを終わらせるための苦渋の決断だったら? それは人殺しと言えるのか?

考えても、はっきりとした答えは出ない。結局、庄兵衛は自分で結論を出すのを諦め、流刑を言い渡した御奉行様の判断を信じることに決める。

沈黙した二人を乗せた舟は、黒い水の面をすべっていった。

 

感想

詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が気に入っている点(推しポイント)をいくつかピックアップしていきます。

盛大にネタバレを含んでいますので、未読の方はご注意ください。

(なんなら、本編を読んでいただいてからの方が、楽しめる内容かもしれません)

 

。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。

 

推しポイント1:庄兵衛の欲望に対する洞察。身に覚えがありすぎる・・・

喜助の満ち足りた様子から、人の欲望の際限なさを省みた庄兵衛。しかし「際限ない」と言っても、彼の考える欲求は控えめなものばかり。

  • 今の賃金でも生活はできるけど、もっとお金があればなぁ
  • もしものことがあって働けなくなったときのために、もう少し貯蓄が欲しい・・・

むしろ、これらを感じたことがないって人は、いないんじゃないでしょうか。

(給料も貯蓄も、増えれば増えるほど嬉しい。この世の真理ですよね・・・?)

 

それでも彼は、こうした欲望は止まることを知らず、そのせいで私たちは決して現状に満足することはできない、と悲観しました。

 

まあ確かに、どれだけ裕福になったところで、上には上がいるものです。

それに、もしも世界一の大金持ちになれたとして、私は満足できるのか・・・? と自問すると、絶対そんなことないと断言できます。

「あの人の方が(貧乏のくせに)幸せそうでムカつく」みたいな、みみっちい嫉妬を抱いている自分の姿がありありと思い浮かびます。あー、人間ってば醜いわね。

庄兵衛が悲観するのも納得です。

 

というか、庄兵衛さんすごいですよね。喜助がなぜ満ち足りた気分でいるのか聞いただけで、一瞬で自分の中に隠れた無限の欲望を客観視して、人類の醜い性質まで分析・反省してしまうとは。

もし高瀬舟に乗っているのが私だったら、喜助の話を聞いても「へ〜、今まで大変な生活を送ってたんだね〜」って、薄っぺらく同情して終わってたかもです。

この作品が名作になったのは、庄兵衛(ひいては森鴎外)の深い洞察力のおかげですね。

 

推しポイント2:殺人は必ず罪なのか? 現代でも議論され続ける普遍的テーマに迫る

後半で語られた、喜助の弟の話。壮絶でしたね。

この兄弟、薄幸すぎる 。゚゚(*´□`*。)°゚。

 

そして喜助は「弟を殺した」と言えるのか? 

どうせ助からない命なら、最後は苦しまないように旅立たせてあげたい。それを実行に移すのは、通常のいわゆる殺人罪と同等のものとして扱われていいのだろうか?

 

庄兵衛が頭を悩ませていたこの問題、現代風に置き換えると、安楽死を認めるか否かみたいなことに、通ずるものがありました。というか、ほぼそのまんまですよね。

安楽死の認否関連の話題って、ニュースとか道徳の授業とかでも、まだまだ活発に議論されているので、なんとなく最近出てきた問題なのかな〜と思っていたのですが、こんなに昔から議論され続けていたんですね。驚きです。

 

庄兵衛は最終的にオオトリテエ(authority = 権威)、つまりお上の判断に任せることで答えを出すのを諦めました。今日を生きる我々も、何が正解か、全員が納得する答えは出せていません。

森鴎外の生きた時代からずっと、誰もこの問題に決着をつけられないまま、ここまで来てしまったんでしょうね。

いつか誰もが納得できるような結論を出せたらいいなと願いつつ、でもそんな日は永遠に来ないような気もして・・・やっぱり命に関する話題は難しいです。

 

推しポイント3:性格の悪い読者諸君は、こんな楽しみ方もできるぞい

はい、というわけで、ここまで素直に感想を書いてきましたが、ちょっといいですか?

一見、「喜助めっちゃ良いやつじゃん」な終わり方をするこの物語ですが、私は性格が悪いのでついつい疑ってしまいました。

 

喜助が話した内容は、真実なのか?

 

マジで喜助に対して申し訳ない疑いをかけているという自覚はあります。ですが・・・・・・もし彼の語ったことが、嘘だったら?

つまり弟の自殺未遂は嘘で、ただ喜助が弟を殺しただけ。挙句にお涙頂戴の苦労話をでっち上げて、刑罰を軽くしてもらっていたのだとしたら・・・?

(私は昔の司法に全く詳しくないのですが、江戸時代で殺人事件とくれば、犯人はだいたい死刑に処されるイメージ)

 

いったん疑い出すと、もう止まりません。さっそく二周目を読み返してみました。すると、違和感のある点がちらほらあるんですよね。

 

例えば、最初のシーン。喜助は流刑に処されたことを、とても喜んでいるようでした。彼の説明によると「初めて居場所を与えられ、おまけに軍資金までもらえたから」ということでした。

しかしよく考えてみると、このとき喜助は弟を失ったばかりです。幼い頃からずっと二人で助け合いながら生きてきた、かけがえのない弟を、失ったばかりなんです。

いくら新しい生活が楽しみだからといって、ここまで晴れやかな気持ちになれるでしょうか。

 

それに弟の死の経緯の説明が終わった後には、こんなことが書かれています。

喜助の話はよく条理が立っている。ほとんど条理が立ち過ぎていると言ってもいいくらいである。これは半年ほどの間、当時の事を幾たびも思い浮かべてみたのと、役場で問われ、町奉行所で調べられるそのたびごとに、注意に注意を加えてさらってみさせられたのとのためである。

注目したいのは2文目。喜助の話は「ほとんど条理が立ち過ぎている」というところ。

もちろん3文目に記されている通り、取り調べのときに何度も話したから、不自然なぐらい説明が上手だったという説も十分あります。

しかし逆にいうと、取り調べで聞かれてスラスラ答えられるように、事前に偽の状況説明を作っていたから、とも推察できるわけです。

 

私の考えすぎかもしれませんが(むしろ考えすぎであってほしいですが)・・・。

 

黒い水面上を沈黙しながら去っていった二人は、一体どんなことを考えていたのでしょうね。

まとめ

本記事では、森鴎外の『高瀬舟』のあらすじと感想を書かせていただきました。この記事を通して、少しでも彼の作品に興味を持ってくれる人がいらっしゃれば幸いです。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

改めまして、作品URLはこちら↓

www.aozora.gr.jp

 

おまけ:『高瀬舟』が好きな人にオススメの作品!

このコーナーでは、world is aozoraの独断と偏見で、『高瀬舟』が好きな人が気に入りそうな作品を推薦します。

次に読む本に困っているそこのあなた!

騙されたと思って読んでみてください。

 

オススメ1:『舞姫森鴎外

同作者の別作品のご紹介です。

高瀬舟は中三教科書に載っているそうですが、こちらは高校三年生の教科書に載っていたらしいです。最近は載っていない教科書もあるという噂も聞きますが、実際のところ、どうなんでしょうか。

ちなみに私は、『高瀬舟』も『舞姫』も教科書で見た覚えがありません(笑)

 

舞姫』の文章はちょっと読みにくいですが、慣れればなんとなく適応していって、最終的には何故か読めるようになっていきます(多分)

みなさん、諦めずに読み進めてみてください。

 

主人公の最終的な決断を、あなたはどう受け止める?

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オススメ2:『山月記中島敦

続いての作品も、高校教科書作品シリーズです。

エリートコースから外れて詩歌の道に進むも、夢破れた李徴。気づけば彼は、虎になってしまっていた、というお話です。

 

高瀬舟』の後半戦では安楽死のように、現代でも議論され続けている問題に触れられていました。一方『山月記』の主人公が抱えている悩みは、自己実現を追い求めた末に迷走してしまった自身の人生について。

こちらも私たち誰もが一度は考えたことのあるような、連綿と受け継がれた根深い問題だと思います。

 

虎になってしまった李徴は、一体どうするのが正解だったのか・・・?

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