こんにちは。world is aozoraです。
本日は、フランツ・カフカの『流刑地で』という作品について、ご紹介したいと思います。
カフカといえば『変身』『審判』『城』などの作品が有名ですが、実は他にも多くの名作を残しています。『流刑地で』も、そういった隠れた名作の一つ。
本記事では、そのあらすじと魅力をお伝えしていきます!
基本情報
あらすじ
主人公の調査旅行者は、旅先の流刑地でとある兵士の処刑に立ち会うことになった。その地では昔の司令官が発明したという「全自動処刑マシーン」が利用されているが、それがなかなか非人道的な代物だった。なんでも、処刑執行人の将校の話によると、その装置は裸体の受刑者に針を突き刺し、罪状を刻印することで、十二時間もかけて死刑囚の体を切り刻むらしいのだ。
将校は旅行者に、処刑装置の仕組みを細部に至るまで丁寧に説明していく。将校はこの恐ろしい装置を、非常に誇らしく思っているようである。
しかし彼の誇りであるこの装置も、今や民衆の支持を失いつつあった。昔は大勢いた処刑の見物人も、今や旅行者ただ一人。大掛かりな装置だというのにメンテナンスは将校がワンオペで行なっており、故障した部品の代わりを要求してもなかなか支給されないという有様。
このままでは装置が廃止されかねない。そう考えた将校は、処刑マシーンの存続をかけて、旅行者にある提案を持ちかける ——
果たして、この提案の行方はいかに。
感想(ネタバレ注意!)
詳しいストーリーは小説本編を読んでいただくとして、ここからは私が思う『流刑地で』の推しポイントをいくつかピックアップしていきます。
多くのネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
またここに書くのはあくまで感想であり、文学的な知見から見た作品解説とかでは一切ありませんので、あらかじめご了承ください。
(そういった解説をお望みの方は、他の方が書いていらっしゃる読書ブログなどを覗いてみると、面白い意見がたくさん見つかります。ぜひ探してみてください!)
推しポイント1:グロいはずなのにグロくはない、独特なストーリー展開
この物語のキーアイテムは、将校が語っていた全自動処刑マシーン。彼は本物の受刑者相手に機械を動かして、旅行者にその挙動を紹介します。
しかしグロいシーンが連発しているかというと、別にそんなことはありません。
(個人差はあると思いますが、少なくとも私はそう感じませんでした)
というのも、物語のメインとなっているのは装置自体ではなく、それに関して旅行者と将校が交わしている言葉と、それに伴う行動だからです。
二人は処刑装置に対して、わりと冷静に意見を交わしていきます。
残虐な装置と、それに対する何の暴力性も伴わない議論。
こうした対極にある二つの性質が、独特な世界観を作り上げていると感じました。
ところで、普段から処刑を見慣れている将校の方はともかく、今回が処刑シーン初見のはずの旅行者がパニックにならずに落ち着き払っているのも、このシュールさに一役買っている気がしますね(もちろん良い意味で)。
旅行者の肝がすわりすぎているのか、それとも自分が処刑対象ではないからこその余裕の態度なのか・・・・・・。
私なら処刑の実演が始まるタイミングで、いったん理由をつけて逃走していたと思います(笑)
推しポイント2:将校の信念の強さ
推しポイントの二つ目は、将校の信念の強さです。
さて、ここで盛大なネタバレです。
装置を存続させるため、旅行者にある依頼をした将校ですが、旅行者はそれを断ってしまいます。なぜなら旅行者も、装置を使った処刑方法に反対だったからです。やっぱりこの装置の倫理的な問題は、看過できなかったんですね。
そしてここからが、このストーリーのすごいポイント。依頼を断られた将校はなんと、受刑者の処刑を取りやめて釈放します。さらに彼は、受刑者がいなくなった処刑マシーンに、自ら身を委ねます。
そして泣き言は愚か、死に対する恐怖心すら表に出さずに、己の処刑を実行するのです。
このシーンに対する解釈は色々あると思いますが、私の考えでは、将校はきっと旅行者に依頼を断られたことで、装置の廃止が免れえないことを悟ったのだと思います。もしかしたら、自分が誇りに思っていた処刑の仕組みが、客観的に見ると非人道的であることを痛感し、今まで受刑者たちにしてきた仕打ちの償いをしなければいけない、と罪の意識を感じた節もあったのかもしれません。
自らの誇りが詰まった装置。
しかしその装置に肯定的な視線を向ける者は、もはや誰もいない。
そのことに気づいた将校は、自らが信念を捧げた装置と心中する道を選ぶ ——
なんか、グッときますよね!(語彙力)
推しポイント3:受刑者やその他の登場人物の行動
最後の推しポイントは、釈放された受刑者をはじめとした、将校以外の流刑地の住人がとった行動です。
まず受刑者ですが、彼は将校が自分自身を処刑しようとしていることに気づくと、それまで塩らしくしていた態度が一転。嬉々として将校を処刑台に縛り付け、処刑の顛末を最後まで見届けようとします。
自分を処刑しようとしていた人間が死にかけているわけですから、さぞや痛快な気分だったことでしょう。
が、将校の覚悟の強さを知っている旅行者からすると、見ていてあまり気持ちのいい態度とは言えません。
さらにその後の場面では、流刑地の他の住人たちも、処刑装置を発明した旧司令官を馬鹿にする態度をとっています。
将校の言動には(倫理的でない点があったとはいえ)美徳が感じ取れたのに、彼らのヘラヘラしたこの態度は一体なんだというのでしょう。
まるで「古き良き文化ですら、古臭いと一蹴する嫌なやつ」みたいです。
というわけでこのシーン、架空の流刑地で暮らす架空の住人の話をしているのに、しかもカフカ自身ももうずっと昔の人だというのに、なんとなく現代にも通ずるところがあるんですよね。
それがまた、イイ・・・・・・!
まとめ
おまけ:『流刑地で』が好きな人にオススメの作品
オススメ1:『変身』| フランツ・カフカ
というわけで、一つ目に挙げたのは『変身』です。
主人公が結構デカめの虫になってしまうところから始まるこの作品。
超有名作品ですが、未読の方はぜひ。
オススメ2:『妄想』| 森鴎外
『流刑地で』は最近のエンタメ小説などと比べると、かなり読み応えのある文体ですよね。そんな「読み応え抜群な文章」が大好きだという同志に向けた一作です。
日本人が書いたはずなのに、下手したらカフカよりも西洋感が漂うこの作品。
しかし、そこに記された主人公の諦念や無力感のような感情は、やっぱり現代にも通じるポイントがあります。